長野県建築文化賞
令和6年 第17回 長野県建築文化賞 受賞作品
長野県内に建てられた建築物から、長野県の環境、風土、文化に根ざした作品、設計、造形表現及び施工における創意溢れる作品、景観や省エネに配慮した作品を募集し、優れた作品を表彰することによって、地域の建築文化の発展に寄与するとともに建築士の資質の向上に資することを目的に、隔年で実施している「長野県建築文化賞」の第17回受賞作品が決定いたしましたので発表します。
今回は、本年度より当会が「信州健康ゼロエネ住宅普及促進協議会」の会長を務めることから、環境負荷の低減に配慮し、省エネルギー化への取組や提案がなされている作品を評価することとし、新たに「省エネ賞」を設けました。
また、応募作品数が少なめだったこともあり、該当者なしの賞があります。
審査員長には、長野県稲荷山養護学校の設計に携わられ、千曲市ご出身である東京芸術大学名誉教授の建築家、北川原温氏をお迎えし、当会名誉会長の荻原白氏、副会長で信州健康ゼロエネ住宅普及促進協議会長の西村文彦氏の3名の審査員で審査が行われました。
会員各位におかれても受賞作品をご覧いただき、日々の建築活動に活かしていただけたら幸いです。お忙しい中ご対応いただきました多くの関係者の皆さまに感謝申し上げます。
○ 応 募 期 間: |
令和6年9月15日〜10月31日 |
○ 応募作品数: |
一般部門7点、住宅部門6点、既存ストック活用部門9点 計22点 |
○ 審 査 会: |
第1次審査:令和6年11月11日(月)
第2次審査:令和6年12月3日(火)~4日(水)[現地調査] |
○ 審 査 員: |
(審査員長)北川原温氏(建築家、東京芸術大学名誉教授)
(審査員)荻原 白氏(当会名誉会長)及び西村文彦氏(当会副会長) |
総評
長野県は自分の生まれ故郷ということもあって、特別な想いで審査に参加させていただいた。書類審査で選定された11の建築の現地審査は丸2日間かけて行われた。
2日間とも天候に恵まれ、赤褐色の山肌が美しい浅間山や雪化粧をした優美な北アルプスなどを移動する車中から眺めることが出来た。ここに暮らしてきた人々の美意識の土台を醸成してきたに違いない美しい山々の景色を目にして、それが今も変わらずにそこに存在していることに素直な感動を覚えた。
その一方で、この半世紀の間に一気に拡大した市街地が、のどかな田園や里山を呑み込み、昔ながらの風景をことごとく消し去ってしまったことに愕然とした。環境や空間が著しく劣化し、人々の美意識までも消し去ってしまったのではないかという危機感を強くもった。
そうした憂うべき状況の中で、多くの建築家が、とくに地元の建築家が少しでも質の高い美しい環境や空間をつくろうと地道な努力を重ねていることを、今回の審査を通じて実感できたことは大きな救いであった。
中でも、地域の貴重な伝統文化を今に伝えるかけがえのない建築の保全に取り組む自治体や建築家の姿勢には心打たれるものがあった。
また県産木材を適材適所に活用して斬新で独創的な建築づくりに挑戦した仕事にも接して、これからの長野県の建築文化の発展に確かな期待をもつことが出来たことは幸いであった。
審査員長 北川原温
一般部門
住宅部門
優秀賞 省エネ賞 |
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環境を尊ぶ終の住処(北佐久郡軽井沢町) 鎌田賢太郎
軽井沢町借宿に立地し周辺は一般住宅地で、鎌倉市から移住された60代ご夫妻の終の棲家の住宅である。緩やかな南傾斜の敷地で北側前面道路側はアクセス庭、南側は緑豊かなプライベート空間で構成され平屋建ての東西に長い建物で計画されている。ZEH基準UA値0.40断熱性能と太陽光発電・蓄電池・V2Hと薪ストーブで極寒の軽井沢町で再生エネルギーを活用し快適な住いを実現させました。今回の審査基準省エネ化への取組みで最も優れた建築で、更に周辺環境にも配慮された住宅部門優秀賞にふさわしい秀作です。
(荻原 白)
《省エネ賞》
鎌倉市よりこの軽井沢に移住した60代の夫婦の住まいとして建てられました。北側道路で南傾斜の恵まれた立地条件を最大限に使って環境対応住宅を設計しています。外皮は高性能な断熱材で囲まれ、全ての居室を南面させて最大限の採光を図っています。太陽光発電と蓄電池を設置し、V2Hシステムでこの地に不可欠な車への対応も配慮され、全電化されたシステムを最大限に省エネ化しています。更に、薪ストーブも設置されています。UA値は0.40を有し断熱等級5に該当しています。
(西村 文彦)
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奨励賞 |
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姨捨の家(千曲市) 伊東亮一
千曲市姨捨の建物は棚田地形を壊さない配置及び平面計画で、周辺景観に配慮した2か所折り曲げ《田毎の月》《長楽寺》等を見下ろせる高台に建つ建築です。建物中心に吹き抜け空間を設け、自然光・卓越風・日射熱等を取り込み四季を通して住人自身が快適な室内環境を調整でき、更に一階に地域開放された《お茶のみテラス》、二階には善光寺平を一望できる《月見台》を設け、この歴史ある景観と共に暮らしたい建築主の強い思いを解決し、吹き抜け空間は斬新な省エネ化を取り込んだ住宅です。
(荻原 白)
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既存ストック活用部門
最優秀賞 (県知事賞) |
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奥村土牛記念美術館耐震改修工事(南佐久郡佐久穂町) 松橋寿明
この建築はもともと地元のつくり酒屋が建てた宴会場であった。このような贅を尽くした立派な宴会場が、信州の山奥にあったということにまず驚く。街道沿いにはよく見られるが、こんな山奥でもかつては華やかな社交文化があり、ここはこの村の社交場だった。しかしそれは日本全国の地方都市、山間の集落にも見られた。かつてはそれだけ豊かな社交文化の花が咲く勢いが地方にも存在していたということに改めて気づく。翻って今の地方や山村にはそうした文化は見る影もない。
しかし優れた建築はそのコンテンツが変わっても、生き永らえ続ける。この建築がその好例だ。町の賢明な判断、文化を守る志の高さに敬意を表したい。
その町の意向を深く理解して、耐震設計を行い、目に見える改変を最小限にとどめるためには相当に高度な技術手腕が必要とされるが、設計者は実に完璧に応えていることに感心した。
文化財の耐震設計、保全設計はその建築がつくられたときの時代背景や建築に込められた意図などを分析、理解しなければならない難しい仕事であり、目に見えない困難が多々あったと推測される。そうした壁を乗り越えて、完成にこぎつけた力量は見事というよりほかはない。
ただ一点、玄関の真正面に設置されたスロープだけが残念だった。将来的に他の解決方法も検討してほしい。
(北川原 温)
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最優秀賞 (県知事賞) 省エネ賞 |
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漆の里やきさわらのいえ(塩尻市) 川島宏一郎
伝統工芸産業は全国各地でその衰退と消滅の危機が叫ばれているが、塩尻市の木曽平沢もそのひとつだ。数年前に訪れたときは若い漆作家の工房で漆を施した美しいガラス器やピン角出しの精緻な仕上げの漆塗りの木箱など、独創的な表現に挑戦したり、新しい技術を探究している若い作家達が根を生やしていることに感動した覚えがある。
審査対象の建築は伝統的建築を改修復元したものだが、設計者自身がここに家族で移住、日々、各部の手入れをし、修復の構想を立て、住みながらの改修を楽しんでいることが伝わってくる。
この地域独特の空間構成、例えば雁行するファサード、水路のある裏庭へと続く細長く奥行のある空間構造を守りながら、現代のライフスタイルに合わせて巧みに改修設計を行っている。
第三者としてこうした伝統建築の改修設計を手掛けるだけでなく、自らが住人となって地域社会に加わり伝統産業の復興に取り組み、街区修景の全体像を描き出そうとしている設計者の姿勢は瞠目に値する。
設計者が語っていたように、街区の修景のコンセプトを単なる観光資源としてだけでなく、漆産業というこの地域の生業そのものが街の顔をつくるという本来のまちづくりに挑戦している姿勢は、建築家のあり方として高く評価されるべきだろう。
(北川原 温)
《省エネ賞》
伝統の街並み保存が、空き家問題等で難しくなっている木曽平沢のメイン通りに、この建物は溶け込むように建っています。重伝建としてのファサードを確保しながら耐震化、省エネ化を図っています。
地元の材料、それも利用されない材料に手を加えて利用し、建物の活用方法も住宅、事務所、旅館と可能性を広げています。薪ストーブを設置し、太陽熱利用システムも導入して再生利用エネルギーも積極的に取り入れています。UA値は0.28を有しています。
(西村 文彦)
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過去の審査結果
第16回 長野県建築文化賞審査結果
第15回 長野県建築文化賞審査結果
第14回 長野県建築文化賞審査結果
第13回 長野県建築文化賞審査結果
第12回 長野県建築文化賞審査結果
第11回 長野県建築文化賞審査結果