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長野県建築文化賞

長野県建築文化賞の目的

 長野県の建築文化の発展に寄与する優れた建築作品を広く募集し、意匠・技術面から総合的に審査し、その設計者である建築士の功績をたたえ表彰することによって、会員の創作意欲や設計活動の向上に資する。
 表彰作品及び設計者を公表し、社会に建築士の活動や建築士会の存在の理解をはかる。

令和4年 第16回 長野県建築文化賞 受賞作品

長野県内に建てられた建築物から、長野県の環境、風土、文化に根ざした作品、設計、造形表現及び施工における創意溢れる作品、景観や省エネに配慮した作品を募集し、優れた作品を表彰することによって、地域の建築文化の発展に寄与するとともに建築士の資質の向上に資することを目的に、隔年で実施している「長野県建築文化賞」の第16回受賞作品が決定しましたので報告します。

今回は、長野県立美術館の設計にも携われ、県下の建築界に詳しい日本建築家協会会員で(株)プランツアソシエイツ代表取締役 宮崎浩氏を審査員長に迎え、当会名誉会長の場々洋介氏、会長の荻原白氏の3名の審査員で審査が行われました。

会員各位におかれても受賞作品をご覧いただき、日々の建築活動に生かしていただけたら幸いです。お忙しい中ご対応いただいた多くの関係者の皆様に感謝申し上げます。

○ 応 募 期 間: 令和4年7月~8月
○ 応募作品数: 一般部門9点、住宅部門23点、既存ストック活用部門7点 計39点
○ 審 査 会: 第1次審査:令和4年9月28日(水)
第2次審査:令和4年10月18日(火)及び同月20日(木)~21日(金)[現地調査]
○ 審 査 員: (審査員長)宮崎 浩氏((株)プランツアソシエイツ 代表取締役)
(審査員)場々 洋介氏(当会名誉会長)及び 荻原 白氏(当会会長)
総評

 この度の第16回「長野県建築文化賞」において、一般部門や住宅部門、既存ストック活用部門の全3部門に、合わせて39点もの応募がありました。どの部門も優れた作品が多く、審査は容易ではありませんでしたが、まずは書類にて各部門合わせて13点まで絞り、現地審査を行いました。
 近年はコロナ禍の影響により、思うように現地審査ができずにいたのですが、今年はなんとか丸2日かけ、予定した作品すべてをこの目で見ることが叶いました。限られた時間ではありましたが、現地に立って発注者や設計者と対話をしていると、図面や写真だけでは到底見えなかったものが見えてくるものです。どの作品からも設計者とクライアントとの信頼関係の深さが感じられ、久々に生のコミュニケーションの醍醐味を痛感した審査となりました。
 同時に今回、時代の変化を感じた点がふたつありました。ひとつは東京や大阪等の都市部で生活していた人達が、長野の地に新しい生活や事業の場を求めてつくったプロジェクトが増えてきていることであり、もうひとつは、既存ストック活用部門に見応えのある応募作品が数多くあったことです。単なるリフォームではなく、古いものの価値をしっかり見捉えた上で時代に合わせた付加価値を生み出した作品は、全て壊してゼロからつくったものにはない、再生建築ならではの魅力が確認できるものでした。
 いずれも、設計者とクライアントとの良好な関係が建物固有の表現を生み出していたと思います。改めて、建築とは、クライアントと設計者との協働作業であるということを実感した審査でした。形や性能、用途は異なれど、各部門に多くのバラエティに富んだ優れた入賞作品を選出できたことを、審査員として大変嬉しく思っています。

審査員長 宮崎 浩


一般部門
最優秀賞
(県知事賞)

木曽町役場(木曽郡木曽町)
千田友己・千田 藍

木曽町役場新庁舎は、旧中山道沿いに位置する約2,600㎡の無垢製材による在来軸組木造の平屋建築である。
この施設の完成度の高さは、2017年に公募されたプロポーザル(宮本佳明審査委員長)から始まり、対話型設計プロセスの運営や、地場産木材(有名な木曽のヒノキやカラマツ)の発注システムの構築、竣工後の管理体制等に至るまで、発注者の施設に対する強い思いと高い見識に支えられていると言っても過言ではない。
そうした環境の下、設計者は見事その期待に応え、木曽町では前例のない大規模無垢木造工法を採用し、この町にふさわしい庁舎の姿をつくり上げている。内部空間は、中山道のこみちと名付けた100mを超える中廊下を中心に、オープンでさわやかな木造特有の自然を感じる風景を生み出している。長野の魅力が詰まったまさに県知事賞にふさわしい作品である。

(宮崎 浩)

優秀賞
ホテルインディゴ軽井沢(北佐久郡軽井沢町)
竹花裕貴

軽井沢という立地でしょうが、日本には3か所しかないけど、世界でホテルを展開されている会社のホテル、ロビー棟、レストラン棟、スパ棟と3棟の宿泊棟で構成されている。
大規模なホテルでありながら分棟で構成されているので渡り廊下から軽井沢らしい緑の空間を味わえる。内装は海外のインテリアデザイナーが担当されたと聞く。どこか異国感を感じました。当日も若い家族ずれもおおく軽井沢ならではのリッチ感に浸る。
特に、ロビー棟とレストラン棟の木造の構造が美しく、感動しました。軽井沢の森を連想するV字の柱と張弦梁による、木造大断面構造が力強く感じました。

(場々洋介)

奨励賞
大北医師会館(大町市)
荒井 洋

医師会館は大町市立大町西小学校の北側に位置し、敷地形状は北面がL形であり建物内部の大きな開口部から田園風景と北アルプスを正面一望に見渡せる様に、北側境界と建物は18度南に振って構成されている。更にアプローチからは下屋を正対させ正面性を見事に形成している。内部も各部屋の機能に応じて温もりのある自然素材で纏められ、医師会員の皆さまが満喫できる空間と評価しました。

(荻原 白)

住宅部門
最優秀賞
(県知事賞)

善光寺平を望む家(長野市)
荒井 洋

「善光寺平を望む家」というまさに作品名称通り、敷地眼下に見事な風景が広がっている。敷地の過半は傾斜地であり、建物は道路形状に合わせた扇状の平坦地に計画されている。実は書類審査時、この作品をどのように評価すべきか悩んでいた。しかし、現地審査でクライアントが「電線のない風景の中で暮らしたい」との思いからこの土地を入手し、あとは設計者にまかせたという話を聞いた。設計者は、そうした信頼感に答えるように、敷地の持つポテンシャルを引き出し、1日の大半を過ごすであろう居間スペースからの風景を絵画のように切り取ることでクライアントの思いを実現している。やはり建築はその場に身を置いて初めて見えてくるものも多いと再認識させられた。又、ベテランらしく気負わずに丁寧な納まりの工夫も随所に見られ、住宅部門最優秀賞にふさわしい秀作である。

(宮崎浩)

優秀賞
富士山を望む八ヶ岳の家(南佐久郡南牧村)
佐野優子

八ケ岳高原海ノ口自然郷は50年以上の歴史ある別荘地です。難しい敷地高低差を絶妙に解決し外部内部空間を創り出した建築を観て感動しました。北側前面道路からフラットに2階玄関ホールとメインフロアにアクセスでき、そこからの南面に広がる眺望を享受でき、1階はトレーニングジム等で構成される。別荘地周辺の景観を主に建物は主張せず従にした素敵な住宅を体感できました。

(荻原 白)

優秀賞
御代田の住宅 ―大屋根に包まれた暮らし―(北佐久郡御代田町)
久保貴実乃

緩やかな南傾斜の敷地で西側に広大なレタス畑と周辺は住宅に囲まれ、南面に開いたキラリと光り輝く端正な建築です。景観に配慮された三種類の勾配屋根の組合せで建物全体を低く抑える反面、豊かな内部空間を各所に創りだしている。内装は自然素材で纏められ各部屋のボリューム感も的確でアットホームな木の香り漂う建物で、しかも2050ゼロカーボン達成のCO₂削減を目指した見事な住宅でした。

(荻原 白)

奨励賞
Casa・X(交錯する家)(北佐久郡軽井沢町)
甘利享一

軽井沢の母の家の隣に建てたアトリエ兼住宅です。施主はイタリアで27年間バックのデザイナーをしていた女性。帰国して住宅とアトリエのある住宅です。お話を聞くと、施主は古材や外観の 板貼を希望してできています。設計者によると、古材を安価で確保できたが、それぞれの部材をどこに使うかは大工さんと決めたようですが、大変だったようです。静かな環境と、軸をずらした2棟は設計者によると、Xつまり屋根勾配が交錯する家。これは、日本とイタリアという違う文化圏の交錯をイメージしたようだ。施主は通いつけのカフェの設計に感動し設計者を探したようで うらやましい限りです。

(場々洋介)

奨励賞
軽井沢のセカンドライフハウス(北佐久郡軽井沢町)
岡田一樹

施主は、名古屋から車で通っているようでした。いずれは軽井沢に移住し、第二の人生を再スタートするための家にするとこのとこでした。2棟の平屋の住宅棟とゲスト棟が並列している形です。2棟に分節したのはそれぞれの機能が明確にわかれ、鍵を借りればゲストルームのみ利用が可能である。平屋の建物は全体的に低く抑えられていて、軽井沢の景観になじんでいる。建物内はコンクリート打放しの天井や壁があり、冬は大丈夫かと思うが、断熱はしっかり考慮されていると設計者は話す。設計者は若いですが、有名建築家のアトリエと聞く。今後の設計を期待する。

(場々洋介)

奨励賞
新人賞

上野の家(長野市)
田中 圭

長野市郊外に立地する、夫婦と小さな子供2人が暮らす典型的な郊外型住宅である。敷地は南・西面が接道し、南面は道路を挟んで2mを越す擁壁の上に隣家が建っている。設計者は敷地の性格を読み取り、庭に面した1階の南側にリビングを配置するという思い込みを捨て、主たる生活スペースであるリビングを半層スキップさせることで、1階エントランスゾーンから2階の子供スペースまでを一体の連続空間とし、採光の問題もプライバシーの懸念も解決しながらすがすがしいスペースを生み出している。
又、ローコストの既成引き違い窓を片引き窓として内外をデザインするなど、コスト上の工夫等も優れている。設計者によくよく話を聞くと30代半ばで独立した初プロジェクトであり、前職でも住宅の設計の経験はないという。まさに新人賞にふさわしい力のこもった作品である。これからも長野を拠点として精力的に活動を続けて欲しい。

(宮崎 浩)

既存ストック活用部門
最優秀賞
(県知事賞)

miike(東御市)
井原正揮 井原佳代

敷地は八ヶ岳連峰を見下ろす田園風景の中にあり、周辺にはプレハブ倉庫が点在している。その中の1つ、どこにでもあるような間口10m奥行6mほどのプレハブ倉庫を、Uターン夫婦のための写真スタジオ付美容院へと用途変更したプロジェクトである。
リノベーションは、オリジナル空間の性格を綿密に読み解かねば、表層的なデザイン改築の域を出ない。ここでは、既存の外壁下地胴縁をデザインの下敷きとし、それを基準に外壁をくり抜き、家具を組込み、スライドする可動の鏡を胴縁間につくりこんでいる。簡単な操作の積み重ねに見えるが、このデザインコードの発見が、単なる倉庫を美容院らしい洒落た空間へと生まれ変わらせている。
また、周辺の空地を少しずつ整備することによって、この小さな設計行為が、今まで寂しかったであろうこの場を活気ある風景へと更新し始めている。既存ストックを見事に活用しており、高い評価に値する作品である。

(宮崎 浩)

優秀賞
101年目の家(上田市)
川口裕人

101年目の家は、施主が週末住宅のための土地を探していた中で、施主が幼少期の頃からよく家族旅行にきていた長野県上田市の古民家に出会った。既存住宅は減築やジャッキアップの上、基礎補強工事も行い、101年目の住宅が再生された。施主は多趣味な方で、将来は地域に開放した私設ギャラリーを目指すと、当日お話が聞けた。施主である娘さんと設計者は友人とのこと、敷地、建築の選定と大変ご苦労されたことと思う。梁にかかれた年号から、再生を決められているようですが、力強い梁の存在も感動する。北側に追加された長い窓からの風景が心に残る。

(場々洋介)

奨励賞
WORK x ation Site 軽井沢(北佐久郡軽井沢町)
田邉雄之

軽井沢町六本辻脇に建つワーケーション施設の改修建物と外部に休憩スペースのフォーリーを増築。使われてない既存木造建物を各所補強工事とプラン変更そして外壁等の改修により、軽井沢町の厳しい景観条例に適合させ見事に既存ストック活用された建築です。内部は少人数にも大人数に対応できるスペースとソフトを備えており、軽井沢の自然景観に何の違和感を無く建物が再生されました。

(荻原 白)

奨励賞
「継ぐ家」(上田市)
香川翔勲 林 和秀

祖父母から孫夫婦に受け継がれた家です。この家は既存住宅の二階部分の居室を減築し、二階部分を吹き抜けにして一階への採光や通風を確保している、若い夫婦の家。一階は使いやすいように間仕切りを改修して、現代的なプランとなっている。外部から見ると、昔ながらの住宅。内に入ると機能的に改修された住宅でした。キッチンは床の間の跡を利用され時間の変化を感じるなど意図されているのかもしれない。少し気になるのが当時加工された柱など加工の跡が埋木されていなく、切った断片がそのままだということ。設計者の意向かコスト削減なのかと思いました。

(場々洋介)

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