【審査員】
委員長 富永 讓氏(富永譲+フォルムシステム設計研究所)
委 員 出澤 潔氏(長野県建築士会名誉会長・出澤潔建築設計事務所)
委 員 関 邦則氏(長野県建築士会長・(有)関建築とまち研究室)
一般部門8作品、住宅部門21作品、リノベーション部門7作品、計36作品の応募者があり、11月14日の書類審査を経て、1月19日、20日と2日間かけて、風光と起伏に富んだ広い長野の大地に建つ10作品の現地を3人の審査員は巡った。現地での審査にのぞんで感じたことは、作品は書類で見て想像していた印象より、それぞれの土地の条件に呼応して設計密度は高く、充実した作品で、それぞれ納得のいくものであった。特に木工の技術を生かし、素材の選択、ディテールの工夫は建築に豊かな厚みと手作り感をもたらしている。流通と経済の問題もあるだろうが、写真写りの良いペラペラな工業品の組合せに終始することになってしまった都会の建物とは一線を画す質を生み出している。写真を見て、現地へ出掛け、ガッカリすることも審査では多いのである。そういった意味で、応募書類の作成は、お見合い写真のようなものではあるが、それぞれの作品の見所をクローズアップするような応募書類の工夫とセンスを見せて欲しいと思う。
今回は住宅部門に応募が多く、力作が見られ私も勉強するところがあった。リノベーション部門は、資源の活用と場所の記憶の継承、伝達といった意味でも、均質化する現代の日本が迎えた新しい切実な局面である。建築が単なる居住のための道具ではなく、場所に住まう人間に寄り添って背中を支えながら、土地や歴史や規範の伝達をしてきたことを明らかにする。この部門はそうした昔の「生活履歴」の地層を、新しいものとして蘇生させるような提案を求めていた。新築と変わらない質になったのだというだけでなく、異種用途への変換も含めて、空家対策など多くの可能性を秘めている。今回、この部門に最優秀賞がなかったのは、今後、そうした建築の本質に迫る創造的なチャレンジを秘めた応募への期待が審査員のなかにあったからである。
(審査員長 富永 讓)