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平成27年 第12回 長野県建築文化賞
審査結果

【審査員】
委員長 富永 讓氏(富永譲+フォルムシステム設計研究所)
委 員 出澤 潔氏(長野県建築士会名誉会長・出澤潔建築設計事務所)
委 員 関 邦則氏(長野県建築士会長・(有)関建築とまち研究室)


一般部門8作品、住宅部門21作品、リノベーション部門7作品、計36作品の応募者があり、11月14日の書類審査を経て、1月19日、20日と2日間かけて、風光と起伏に富んだ広い長野の大地に建つ10作品の現地を3人の審査員は巡った。現地での審査にのぞんで感じたことは、作品は書類で見て想像していた印象より、それぞれの土地の条件に呼応して設計密度は高く、充実した作品で、それぞれ納得のいくものであった。特に木工の技術を生かし、素材の選択、ディテールの工夫は建築に豊かな厚みと手作り感をもたらしている。流通と経済の問題もあるだろうが、写真写りの良いペラペラな工業品の組合せに終始することになってしまった都会の建物とは一線を画す質を生み出している。写真を見て、現地へ出掛け、ガッカリすることも審査では多いのである。そういった意味で、応募書類の作成は、お見合い写真のようなものではあるが、それぞれの作品の見所をクローズアップするような応募書類の工夫とセンスを見せて欲しいと思う。
今回は住宅部門に応募が多く、力作が見られ私も勉強するところがあった。リノベーション部門は、資源の活用と場所の記憶の継承、伝達といった意味でも、均質化する現代の日本が迎えた新しい切実な局面である。建築が単なる居住のための道具ではなく、場所に住まう人間に寄り添って背中を支えながら、土地や歴史や規範の伝達をしてきたことを明らかにする。この部門はそうした昔の「生活履歴」の地層を、新しいものとして蘇生させるような提案を求めていた。新築と変わらない質になったのだというだけでなく、異種用途への変換も含めて、空家対策など多くの可能性を秘めている。今回、この部門に最優秀賞がなかったのは、今後、そうした建築の本質に迫る創造的なチャレンジを秘めた応募への期待が審査員のなかにあったからである。
(審査員長 富永 讓)

一般部門
最優秀賞(知事賞)
スモールオフィス
山田 健一郎

【所在地 松本市】
ローコストで、小さな建築アトリエである。1階に打合せ室があり、中庭を中心にらせん状に上がる人の動きに沿って、全体の部屋は結び合わされている。的確なスケールと一筆書きの人の動きが心地良い。内部の造作や素材の選択もセンスが良く、どこにも表現的なところや、これ見よがしなところがなく、素直で、爽やかな心が伝わってくる建物である。2階の製図アトリエから対角方向に中庭を介して打合せ室を見る、一体となる空間のつながりは魅力的で、伸びのびとした日々の生活風景が浮かび上がってくる。清貧の美学、デザインがもたらす固有の力を感じさせる。(富永 讓)
優秀賞 Gallery Cafe ならの木
甘利 享一

【所在地 御代田町】
南下がりの傾斜地に建つこの建築の断面図は実に美しい。空気層と断熱層で構成する極めて薄い屋根は太鼓梁と丸太母屋で支えられ、地形に沿ってバッサリと架けられている。片流れのシンプルな大屋根はそのまま室内天井となり、その下に展開するそれぞれのスペースに均一感を与え、設計者のコンセプトが見事に実現している。この建物の入り口となる大きな屋外テラスには一筋のガラス屋根が嵌め込まれ、時の移ろいを感じさせる装置となっている。そして、そこへの長いアプローチはここを訪れる人の心に揺れを感じさせ、四季を通じて自然の美しさ・自然への喜びを感じさせることだろう。
折があったら、太鼓梁・丸太母屋などを題材にして木材が私達の心に伝える力について話し合ってみたい。(出澤 潔)
奨励賞 シュガースポットコーヒー
須永 次郎・須永 理葉

【所在地 軽井沢町】
住宅部門に応募された隣接のK邸(森の中の住宅)と関連づけられてデザインされている。K邸から発する一本の軸線を想定し、この軸線を対角線として描くことができる矩形平面のワンルーム空間が木立の中に置かれている。対角線を棟線とした変形屋根形状をつくりだすための架構に工夫があるようだが、寒冷地で冬を過ごすための対策として見せ場の鉄骨小屋組は天井内に隠蔽することになったと言う。適切な判断であったという思いと、惜しかったという思いがクロスする。チャレンジ精神やポテンシャルを感じさせてくれる建築で、一層の探求を期待したい。(関 邦則)
住宅部門
最優秀賞(知事賞) 善光寺平を望む家
伊東 亮一

【所在地 長野市】
敷地は市道に面し、それから急激に落ち込んだ南の傾斜地にあり、普通は住宅の建つ場所として考えないところである。道路北側面を段葺きの赤茶のガリバリューム鋼板でふさぎ、大地から浮上した横長の直方体のシルエットを見せて魅力的である。単純な幾何学が、周囲の自然の多彩を引き立てるのである。南面に開口面を限定し、善光寺平の雄大な自然と家並みのパノラマへと拡かれた室内と外部テラスは素晴らしい景観である。4.5m幅の横長の平面に格別新しいところはないが、庇で夏の日差しを遮蔽したり、通風を工夫し、厳しい気候から室内を守るといった生活上の配慮がなされている。内部意匠は洗練されたホテルのロビーのようなモダンデザインで、もっと住まう人の気配が伝わってくる魅力が欲しかったようにも思うが、日常の住まいの空間に外側の世界を引き込んだ構想の大胆なチャレンジを評価し、今後に期待したい。(富永 讓)
優秀賞 階層の家
林 隆

【所在地 松本市】
敷地や予算などの設計与条件に恵まれている点で、相当なアドバンテージをもらっているような印象もあるが、巧みなプランニングや行き届いたディテールなどは豊富な実績から生みだされたものであろう。スキップフロア構成は敷地の状況からの発想のようであるが、室内空間に変化をもたらすだけでなく、外部とのつながりをも大切にした妙案だと言える。クオリティの高さを体感させてくれる素晴らしい出来栄えとなっている。その優等な完成度に加えて、ひょうげたる創作マインドやイマジネーションもほしいなどと考えるのは欲張りすぎる注文であろうか。(関 邦則)
優秀賞 MSガーデンハウス
清水 国寿

【所在地 駒ヶ根市】
この建築からは設計者の声高な主張や衒いは聞こえず、ただ静かな安らぎだけを感じることができる。
設計者の木材への思いと板倉工法への豊富な経験とそれらに裏打ちされた技術の自信がこの空間の質を高めている。木材だけのシンプルな材料が単純な架構の木造空間を一層豊かにし、畳敷きのロフトへの階段はその持つ機能を消した装飾品のようでもある。採光・通風の機能を与えられた開口部はその機能に従ってそれぞれの場所に設けられ、優しい木材の壁面と合わせて空間に表情を与えている。階段下にさりげなく置かれた暖房機からは床下に暖気が流れ、素朴な床暖房システムとなっている。
そうした建築への心配りを知る時、単なる技術を超えた設計者の「建築する心」をこの作品から感じることができる。 (出澤 潔)
優秀賞 K邸(森の中の住宅)
須永 次郎・須永 理葉

【所在地 軽井沢町】
既存の樹木を生かし、高床にし、中庭形式で部屋が段差を持って結びついている大規模な住宅である。樹に囲まれた伸びやかな住宅地の環境を十分に生かして快適である。内部の小梁と鉄骨の頬杖を生かした室内も魅力があり、素材やディテールの扱いにも心はこもっている。南側の覆われたテラスと中庭を介した、周囲の森への風景への抜けが、この住宅の最大の見所であろう。気になったことは、住まいとしてはどの部屋も開口が目一杯大きく、それぞれの部屋のニュアンスが画一的に感じられたことである。(富永 讓)
リノベーション部門
優秀賞 流れを生むリノベーション
林 隆

【所在地 池田町】
築後20年ほどの住宅の取り扱いにあたっては、時として予算面で悩ましい択一を迫られると思うが、ここでは旧居住者である両親の愛着もあって、骨組を活かした全面改修が選択された。改修された住宅は、既存建物からの束縛を全く感じさせず、もしかしたら新築しても同じプランになったのではないかと思うほどの完成形となっている。古民家の再生ならぬ中古住宅の再生というところか。建築主にとっては満足な回答と思われるが、その見事さゆえに建築としての物足りなさを漂わせてしまうのも否めない。手法にとどまらないリノベーションとは何なのか。(関 邦則)
奨励賞 ハウスtkz
勝野 大樹

【所在地 伊那市】
改修前の室内空間の質は想像すべくもないが、民家特有の薄暗さと現代生活への機能的不適合ではなかっただろうか。そうした民家を現代の生活の器として改修した成果を現地で体感した時、工事に関わった人々の努力を想い、リノベーションの難しさを改めて教えられる。日常生活の場としてのキッチン・リビングを中心とした改修工事は屋根裏を露わにして、ボリュームのある空間を創出した。露わにされた黒く光る太鼓梁は、このすまいに想い出と愛着を持つ住人にこの家の歴史をあらためて感じさせたことだろう。
「すまい」のリノベーションは表層の改修だけでなく、住み続けることへの夢と生活することへの愛が大切だと感じた現地視察だったように思う。(出澤 潔)

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